更新日:2021年6月1日

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環境インタビュー(気候変動について)

写真:今村 涼子(いまむら りょうこ)さん

今村 涼子(いまむら りょうこ)さん

特定非営利活動法人 気象キャスターネットワーク

テレビ朝日「スーパーJチャンネル」気象キャスター

地球温暖化防止コミュニケーター

昨今、お天気ニュースでは「100年に一度の大型台風が…」「記録的な猛暑日が…」といった言葉をよく耳にするようになりました。昔と比べると、気象の変化が大きくなってきた様子。では、現在地球上ではどのような変化が起こっているのでしょうか。気象予報士の今村 涼子さんにお伺いしました。

近年、大型台風の襲来や猛暑日の増加が問題となっていますが、このような気象の変化の原因はどこにあるのでしょうか。

集中豪雨や極端な猛暑など、いわゆる異常気象と呼ばれる現象が増えてきている大きな原因は、やはり地球温暖化だと考えられます。これまでは、異常気象について、温暖化の影響を科学的に証明することは困難でした。ある特異な現象が発生したとしても、それは⼤気が本来持っている「揺らぎ」が偶然重なった結果発⽣するため、⼀つ⼀つの事例について温暖化の影響のみを見出すことは不可能だったからです。しかし近年、スーパーコンピュータの発展により、その偶然の「揺らぎ」を⼤量の気候シミュレーションによって網羅し、温暖化した気候状態と温暖化しなかった気候状態を比較する分析手法が誕生しました。この手法により、実際に発生した猛暑や豪雨が、温暖化の影響を受けているという検証ができるようになり、例えば、2018年の記録的な猛暑も「温暖化がなければ起こり得なかった」という検証結果が出ています。

これらの異常気象が、昔はたまにしか起こらなかったのが、最近は毎年のようにどこかで発生していて、異常気象が当たり前になってきている、と言いたくなるような傾向が見受けられます。温暖化により、気温のベースが底上げされることで、当然、夏の猛暑が増えます。雨についても、気温が上がると空気中の水蒸気量が増えることで雨雲が発達しやすくなり、同じ強さの台風がやってきたとしても、より大雨をもたらしやすくなります。このような異常気象の発生頻度の増加が、ここ10年くらいでさらに目立ってきています。

例えば、日本の最高気温の記録の更新推移を見ると、(表1)1933年に山形で記録した40.8度は、長い間更新されることなく、ようやく74年後の2007年に埼玉県の熊谷と岐阜県の多治見が更新しましたが、その後は、6年後の2013年に高知県の江川崎が更新、さらに、そのわずか5年後の2018年に熊谷が更新しました。そして、2年後の2020年、静岡県の浜松でも、熊谷と並ぶ日本一の最高気温を記録しています。2007年以降は5、6年ペースで記録が更新されているのです。この気温の上昇傾向には、都市化の影響もあり、大都市になるほど、ヒートアイランド現象によって、より気温上昇の幅が大きくなっています。

【表1】日本の最高気温 更新の推移
日付 地区 最高気温
2020年8月17日 静岡県 浜松 41.1度
2018年7月23日 埼玉県 熊谷 41.1度
2013年8月12日 高知県 江川崎 41.0度
2007年8月16日 埼玉県 熊谷・岐阜県 多治見 40.9度
1933年7月25日 山形 40.8度

今後、地球温暖化がさらに深刻化した場合、気象にはどのような影響があるのでしょうか。

今年2021年も、すでに地球温暖化を意識させられるような状況になっています。3月の桜の季節、お天気コーナーで各地の開花情報をお伝えする時に「統計史上最も早い開花となりました。」というフレーズを、ほぼ毎日言っていたような気がします。今年は、2月3月が記録的な暖かさになった影響で、桜前線が異常な早さで北上し、東北までのソメイヨシノの観測地点45のうち28地点で統計史上最も早い開花日を記録しています。

ただ、将来、温暖化がさらに進むと、反対に開花が遅れたり、開花しても満開にならないということが起こりえます。桜の開花には、冬の寒さの刺激も不可欠なため、温暖化で暖冬傾向が強まると、正常に咲かない状況となってしまうのです。すでに、沖縄では去年、暖冬の影響で、開花した桜が満開を観測できずに終わっています。

このように、動植物の生態系への影響も大きくなってきますが、さらに危険な状況となりえるのが、雨の降り方です。特に台風について、地球温暖化の進行に伴い、強さが増す可能性が指摘されています。気象研究所の解析では、日本の南海上で、猛烈な台風の出現頻度が増加する可能性が高いこと、また、台⾵の移動速度が約10%遅くなることが推測されています。この二つのことが重なると、より強い台⾵が⽇本付近に接近しやすくなり、その影響を受ける時間が⻑くなってしまうことが考えられます。すでにここ数年、台風による甚大な被害が目立っています。2018年9月、台風24号が近畿地方に最大瞬間風速50メートル以上の猛烈な風と記録的な高潮をもたらし、関西空港が浸水、都市部でも大規模停電が発生しました。さらに2019年10月には、台風19号により関東から東北で記録的な豪雨となり、多摩川など一級河川を含む多くの川の堤防が決壊し、広範囲で浸水被害が出ました。台風19号の衛星画像を見ると(図1)、本州に迫ってきている時点でも、中心の目がしっかり確認でき、ほぼ対称の円形を崩さず近づいてきたのがわかります。

画像:台風19号

【図1】

2019年10月11日 台風19号

JMA NOAA/NESDIS CSU/CIRA

当時、この雲の姿を見た時、本当にどうなってしまうのだろうと恐怖感を抱いたのを覚えています。防災上、適切な表現ではありませんが、美しい円形の雲を伴っている台風ほど、怖い台風です。今後こういう姿の台風が日本にやってくる頻度が増える恐れがあるわけです。また、梅雨時期の集中豪雨も、最近は毎年のようにどこかで発生しているような状況です。すでにこのような状況なのに、今後温暖化が進むと、いっそう雨の降り方が狂暴になり、命を脅かされる危険が増すことになります。

また、命を脅かすのは豪雨だけではなく、夏の猛暑も同様です。2010年以降、猛暑の年には熱中症による死者数が、全国で1,000人を超えるようになってきています。2018年の猛暑の夏に、気象庁が「災害級の猛暑」という言葉を使いましたが、猛暑もれっきとした「災害」の一つです。今後も温暖化が進む場合、今世紀末には、35度以上の猛暑日の日数が、関東で今よりも20日以上も増加すると推測されています。今世紀末、ある夏の日の天気予報には、予想最高気温40度以上という数字が、全国各地に並ぶことになるかもしれません(図2)。

画像:2100年の天気予報

【図2】

環境省「2100年未来の天気予報」

各地の現在の最高気温に地球温暖化予測による将来予測を加算して算出

地球温暖化による気候変動を防止するため、今後私たちはどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。

「エコバックを使う」「冷房の設定温度を1度上げる」「なるべく車には乗らない」など、すでに言われてきたことは、もちろん無駄ではありませんが、もう、それだけでは間に合いません。気候変動を食い止めるためには、2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることが、世界各国で求められています(実質ゼロとは、人間活動による排出量から植林などによる吸収量を差し引いて正味ゼロにすること)。あと30年で実質ゼロにしないといけないわけですから、個人レベルではなく、社会のしくみやシステム自体が大きく変わらないと無理な話です。

日本は今、その大きな変化が始まりつつある状況で、去年2020年10月、菅首相も「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。すでに多くの企業で、温室効果ガス排出抑制に向けた新事業の開発や方向転換が始まっていて、その取り組みが企業価値を高めるという見方にもなってきています。また、自治体でも、温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」宣言をする所が増えてきています。個人ができることとしては、このような取り組みをしている企業や政治家、自治体を応援、後押ししていくことも非常に大事だと思います。ようやく本気で動き始めた「温室効果ガス排出を減らす」という大きな流れを、今後はさらに加速させていく必要があります。

そこで、コロナ禍にある今、価値観や常識が変わったという状況にありますが、コロナ禍後の経済復興として、これまでの大量生産・消費型の経済に戻すのではなく、脱炭素・循環型の社会を目指すための投資を行うことで復興しようという「グリーンリカバリー」が注目されています。去年、各国のロックダウンや自粛生活で、二酸化炭素排出量が約5.8%減ったとされていますが、これを一時的なもので終わらせず、変革実現のチャンスととらえ、経済と環境の両立を図ろうというものです。去年から、企業ではテレワークなど働き方が大きく変わり、家庭でも外出自粛などで無駄な消費を見直すなど、これまでと物の見方が変わった部分もあると思います。これをきっかけにして、コロナ禍が収まった時、コロナ禍前と同じ生活や企業活動に戻るのではなく、新しい形態に転換するという意識を持ち続けながら進んでいくことが、社会全体の大きなうねりとなっていくのではないかと思っています。

最後にインタビューの読者に向けて一言お願いします。

偉そうな文面になってしまいましたが、まずは、現状を知り興味を持つことが大切だと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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環境まちづくり部環境政策課企画調査係

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