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更新日:2021年6月1日

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環境インタビュー(生物多様性について)

写真:五箇 公一(ごか こういち)さん

五箇 公一(ごか こういち)さん

国立研究開発法人 国立環境研究所

生物多様性領域

生態リスク評価・対策研究室 室長

現在、地球上には未発見のものを含め3,000万種以上の生物が存在するとされており、これまでに発見された生物はそのわずか一部だと言われています。五箇 公一先生が専門とされている「ダニ」をとってみても、推定5万種以上存在していると伺っています。

なぜ地球上にはこれほど多くの生き物がいるのでしょうか。そしてなぜ生物多様性が重要なのでしょうか。

生物多様性のスタートは今から40億年前と推定される遺伝子(RNA)誕生に遡ります。RNAが遺伝物質としてタンパク質やDNAを作り出し、生物体が形成され、繁殖競争が始まったことで生物進化が加速し、さまざまな種が誕生しました。それぞれの遺伝子や種は環境によって適応力に差があり、この広い地球上に展開される時間的・空間的環境変動によって、遺伝子および種の時間的・空間的多様性が作り出され続けました。つまり、環境が時間的に変わるたびにそれまで適応していた種が滅び、新たな種が進化し、あるいはまた、空間的な環境の微妙な違いに適応して、種が細分化していく、という現象の繰り返しによって、地球上には膨大な遺伝子および種の多様性が維持されています。遺伝子および種の多様性は常に安定しているのではなく、環境の変化にあわせて常に変動しています。現存する遺伝子および種の多様性は40億年という長大な地球環境変動と生物進化が相関して築いた歴史の産物なのです。

種が集まることで生態系が形成されますが、生態系にも多様性が存在します。すなわち森には森の種が集まって森の生態系を形成し、川には川の生物種が集まって川の生態系をつくりだします。さらに地球上にはいろんな地形、気候があり、そうした環境に適応した独自の生態系が構築されることで独特の景観を生み出しています。これが景観の多様性です。生物多様性とは遺伝子というミクロなレベルから景観という大きなスケールのレベルに至るまで、生物が織りなす多様な世界を総称する概念なのです。

そしてこの地球上のさまざまな生態系がそれぞれ独自の機能を発揮し、水、空気、食べ物が持続的に供給される生物圏が形成されています。人間も一生物種としてこの生物圏の中で生かされています。生物圏を維持している生物多様性がなければ人間は、食べることも飲むことも息をすることもできません。いろいろな生き物がいること、つまり多様な生物的資材が存在し、機能しているからこそ、人間もほかの生物も安定した生活基盤を得ることができるのです。

同時に私たち人間は、さまざまな景観や生き物からインスピレーションを得て、社会や文化の多様性も生み出してきました。砂漠の文化、エスキモーの文化、南洋の文化など、地域ごとに多様な文化が存在し、それらは人間と自然との付き合いから生み出されてきたものです。日本人も日本列島という環境の中で、独自の文化を発達させてきました。今、この日本独自の文化は、国際交流の中で高く評価されています。日本の文化は日本という環境、生態系、景観に根ざした日本人独特の感性が生み出してきた個性と言えます。

生き物が存在し、生物多様性があるからこそ人間社会はこれだけ発展することができました。生物多様性は人間にはなくてはならない生活基盤であり、社会基盤なのです。

一般的にダニといえばハウスダストなどを引き起こす、いわば「厄介者」のイメージが強いと思いますが、ダニは生態系ではどのような役割をもっているのでしょうか。

ここ近年、ダニが話題になるニュースが目立つようになってきました。マダニという吸血ダニが媒介するウイルス感染症SFTS(重症熱性血小板減少症候群)で死者が増えているというニュースや、ヒョウヒダニが大量発生したお好み焼き粉で調理されたお好み焼きを食べて、アナフィラキシーショック症状を示して、危うく命を落としかけた男性のニュースが、多くの人の記憶に残っていると思います。

もともとダニという名前の響きを聞いただけで、嫌な生物を連想する人は多いと思います。しかし、実はこの世の中はダニがいないと成り立ちません。言い換えればダニという生物はこの地球環境にとって無くてはならない生物なのです。地球上に生息するさまざまなダニの中で、人間に有害なダニは、極々一部の種のみであり、大半のダニは人間には無害であり、むしろ生態系にはなくてはならない存在なのです。

ダニという生き物は、実は多様性が大変高く、現在分かっているだけで、この地球上には5万種ものダニが生息しているとされます。まだまだ未発見の種もたくさん存在するので、種数だけでも昆虫(注釈1)に匹敵するかも知れないと考えられています。膨大な種数を誇るダニの仲間は、地球上のありとあらゆる環境に適応し、なんと、地上だけでなく、海中にまで生息しています。海の中まで進出している点で、ダニ類は昆虫以上にこの地球上で最も繁栄している分類群と言っていいです。

そして、それぞれの種が、生態系の中で分解者や、植食者、捕食者、寄生生物などさまざまな役割を担って生活しています。ダニの仲間も立派に生物多様性の一員であり、その存在なくしては、生態系は成り立たないのです。

森林破壊、生物の乱獲、外来種の侵入などにより、生態系が破壊されつつあると聞いています。このままの状態が続くと、私たちにどのような影響があるのでしょうか。また、この問題にどのように取り組んでいくべきなのでしょうか。

現時点で地球上に生息する種の数は正確にはわかってはいませんが、現在、さまざまな生物種が急速に姿を消していて、その大部分が人間活動に起因するものであることが環境問題のひとつとなっています。この現象が人間にとって軽微なことなのか、深刻なことなのか、現状はわかっていません。生態系という巨大なシステムで、次々と生物種を消しているさまは、例えるならジェンガで積み上げられた木片をひとつひとつ抜いている状態だと言えるでしょう。

今は大丈夫でも、キーストーン種(中枢種)(注釈2)が消失すれば、ガラガラと崩れるジェンガのごとく生態系が崩壊し、多くの種の絶滅につながるのかもしれません。どれか1種滅ぼすだけで、周りに狂いが生じてくる場合があるかもしれません。我々が生態系のすべてをわかっていて壊しているのであれば多少なりともリスクの予測は可能ですが、現状は無秩序に破壊しているような状態で、崩壊の予測ができないというリスキーな状態にあります。

生態系は、ある程度“系”がつながっていると復元力=レジリエンスが強いですが、湖や島など、閉じられている“系”は簡単に崩壊してしまいます。ある種を引き抜けば、“系”全体がすぐに壊れてしまいます。ひとつの“系”の崩壊を地球全体で見たときにはどうなるでしょうか。地球というシステムは大きいため1種、2種絶滅しても大勢に変化はないと考えられます。ただ、地域的な生態系の崩壊が連続すれば、将来的に地球全体のシステムに影響が生じる可能性は高いです。

自然は深く、広大で、断片的なことならともかく全体を把握することは困難です。しかも、すべては結果論でしか我々は見ることができないため、すべての現象をひとつの科学的法則で説明することは極めて困難です。地域によって種の重要性には差があり、時間的にも空間的にも遺伝的変異と生物進化は続くので、人間の生命に対する知識が追いつく間も無く、生物・生態系は流転します。そして、知らないうちに我々の活動によって種や集団が滅び、生態系が狂うことになります。

人間が追える生物や生命に対する知識は極めて不十分であり、そのメカニズムの解明と理解のためにはより長い時間が必要です。予測不能性というブラックボックス型のリスクを内包した生物多様性に対しては、我々は知識と理解が進むまでは現状維持=保全を実行することが最善の策と結論されます。

生物多様性保全のために我々人間がまず実行に移すべきことは自然環境への負荷を拡大させない持続型社会へと社会システムを変容させることであり、その一歩が地域社会の再生と地産地消というライフスタイルとなるのではないでしょうか。

千代田区は、高度に都市化が進む一方で、一部に豊かな緑に恵まれた地域もあります。生物多様性を含めた環境と共生できる経済社会にするためには、どのような取り組みを行うべきだと思いますか。

東京という長い歴史の中で作り出されてきた「人工的空間エリア」において目指すべき自然共生社会は通常の地方都市や山村エリアで目指されるものとは大きく異なると考えるべきです。都市緑化は温室効果ガスの吸収源として、あるいはヒートアイランド抑止として、あるいはまた住む人の精神的浄化・安定の機能として、重要な意味を持ちます。一方で人為的に移植された森林は山間部からの鳥獣・害虫(スズメバチや蚊・マダニ)や海外からの外来生物など「有害」な生物のレフュージア(注釈3)にもなり得るものであり、その管理には徹底的な人為的抑止(トラップや殺虫剤処理など)も求められます。生物は人間にとって都合の良いものばかりが集まるわけではないことを十分に知っておく必要があります。また温室効果ガス吸収源機能も本来は植物の成長過程における光合成による炭素固定(注釈4)がそのメカニズムであり、常に木々を利用して再生させるという雑木林的な利用を行わなければ、いずれ炭素固定機能は停滞してしまいます。

もちろん古くからある森は、それ自体固有種のレフュージアとしての機能も果たし、学術的にも文化的にも貴重な価値を生み出してくれるので、生物多様性を学ぶ場、身近に感じる場として活用することは重要です。ただ、そこにある生態系は分断された孤島の状態であり、そこから歴史的・地理的な繋がりという部分にまで思考を発展させる工夫が必要となります。

むしろ中央都市で求められる自然共生のあり方は、都市全体が環境に与える負荷を低減させるよう食品・資材・エネルギーの流れや消費量を見直すことから始まります。特に東京都は日本全国および海外から資源・エネルギーの供給を受けることで社会・経済システムが維持されており、そのサプライチェーンが東京から遠く離れた場所の環境に対して影響を発生させています。いわば「資源大量移入・消費エリア」として東京が存在します。

まず個々人が自らのライフスタイル、特に消費の仕方について見直し、資源リサイクル・エネルギー消費の低減、温室効果ガス(自動車の利用など)の減少につながるスタイルへと生活を変容させる努力が必要です。そしてそうした生活スタイルを社会的に定着させるための社会システム・インフラを整備することが行政の重要な責務と課題になります。

最後にインタビューの読者に向けて一言お願いします。

例え、都会に住んでいても私たち人間は生物多様性の一員として、生態系の恩恵を受けて生きています。改めて生物多様性に対する関心を高め、自分の生活スタイルという足元から環境を考えていただければと思います。

(注釈1) 昆虫は体が頭部・胸部・腹部の3節に分かれ胸部に脚が6本備わっている。ダニは体節がなく一塊の体に脚が8本ついている、昆虫とは全く別の分類群に属する節足動物。
(注釈2) 生態系において比較的少ない生物量でありながらも、生態系へ大きな影響を与える生物種。
(注釈3) 生物の避難場所・環境。
(注釈4) 植物には太陽からの光エネルギーを利用して、大気中の二酸化炭素を有機物として固定する働きがあります。特に樹木は幹や枝などの形で大量の炭素を蓄えています。木材を住宅や家具等に利用することで木材中の炭素を長期間にわたって貯蔵することができます(炭素貯蔵効果)。また、木材を燃料等のエネルギーとして利用することも、植林と併せて行えば大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えない効果があります(化石燃料代替効果)。

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環境まちづくり部環境政策課企画調査係

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